シロバナヨウシュチョウセンアサガオ

シロバナチョウセンアサガオ
(シロバナヨウシュチョウセンアサガオ)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ナス目 Solanales
: ナス科 Solanaceae
: チョウセンアサガオ属 Datura
: チョウセンアサガオ(広義)
D. stramonium
品種 : シロバナチョウセンアサガオ
D. s. f. stramonium
学名
Datura stramonium L. f. stramonium (1753)[1]
シノニム
  • Datura inermis Juss. ex Jacq.
英名
jimson weed,
devil's trumpet,
thorn apple,
tolguacha,
datura など[2]

シロバナヨウシュチョウセンアサガオ(白花洋種朝鮮朝顔、学名: Datura stramonium f. stramonium)は世界の温帯から熱帯に分布するナス科の一年草である[3]標準和名シロバナチョウセンアサガオで、その別名であるシロバナヨウシュチョウセンアサガオは牧野富太郎が1907年に名付けたものである[1]

属名は古いヒンドゥーの言葉で「植物」を表すdhaturaに由来する。種小名stramoniumはこの種のギリシャ語名を付けたものであり、「ナス科」を表すstrychnos (στρύχνος) と、「怒り」を表すmaniakos (μανιακός) に由来する[3][4]。シロバナヨウシュチョウセンアサガオは他のチョウセンアサガオ属Daturaと同様にアルカロイド類を多く含み、薬用植物として用いられる[3][5][6]

分布

北アメリカ原産[7]。最初に分類し、学名を付けたのはスウェーデンの生物学者カール・フォン・リンネであるが、それ以前にもニコラス・カルペパーなどの植物学者による研究がなされていた[8]

現在、本種は世界各地の温暖で穏やかな気候の地域において野生化しており、道端、農地、牧草地、芝地、肥料の山など至る所に自生している。ヨーロッパでは荒地やゴミ捨て場の雑草としてよく見られる[9]。種はに運ばれたり、落下によって伝播すると考えられている。果実の開裂により1〜3メートルの範囲に種子が撒き散らされる。日本には明治初期に薬用植物として持ち込まれて渡来し、現在は各地で野生化している[3][10]牧野富太郎によれば天保年間に渡来し、マンダラゲと呼んで栽培、薬用にされたのがチョウセンアサガオで、本種は明治維新後に渡来したという[7]

形態・生態

一年草[7]。茎は淡緑色で、ほとんど無毛[7]。枝が広く開いて株立ちになり、高さ1メートル (m) 以上の茂みを形成する[7][11]は柔らかく、長さは8 - 15センチメートル (cm) ほどで[7]、不規則なぎざぎざの鋸歯がある[6][7]。成葉はほぼ無毛[7]

花期は夏[7]。葉腋に接して、香りのある長さ6.5 - 9 cmの漏斗形(トランペット状)の花を1個ずつつける[7]。花冠は上から見るとほぼ五角形で、径は4 cm、5個の尾状の小突起がある[7]。花の色は純白色[7]。花が完全に開くことは稀である。雌蕊子房上位で4室、雄蕊は5個[7]は五角筒型で先が大小不同に5裂し、長さは3 cmほどある[7]

果実蒴果)は広卵形から卵形で上向きに立ち、長短不揃いの鋭い棘に覆われていおり、熟すと4片に裂開する[7]。成熟した果実はクルミ程の大きさで4室に分かれていて、中に多くの黒い種子が入っている[3][4]。種子は黒色のやや扁平形で、径3 mm[7]

シロバナヨウシュチョウセンアサガオは、広義のヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium[12])にすべて含めるが、花が淡紫色で茎が暗紫色の型を狭義のヨウシュチョウセンアサガオ (Datura stramonium f. tatula[13]) とする[7]。また果実に刺のないものをトゲナシチョウセンアサガオ(Datura stramonium f. inermis、別名:ハリナシチョウセンアサガオ[14])として区別することがある[3][15]

毒性

シロバナヨウシュチョウセンアサガオは、その全部位に毒性が有り、人や家畜、ペットなどを含む動物が摂取すると命に関わる恐れがある。地域によっては栽培や売買が禁止されている。また、この種が自分の庭に生えているのを発見した時は、取り除く事が推奨されることがある[9][10]。活性成分はトロパンアルカロイドアトロピンスコポラミンヒヨスチアミンであり、これらはせん妄発生物質 (英語版) deliriant、抗コリン薬に分類される。気晴らしの為に不用意に摂取し、中毒状態になり、多くの場合入院したり、場合によっては死亡することがある[5]。典型的な中毒症状は、せん妄、異常高熱、頻脈、異常な(場合によって暴力的な)行動、散瞳とそれに伴う羞明である。これらの症状が数日間続く。顕著な健忘もよく報告されている[16]。過剰摂取、中毒の解毒剤としてフィゾスチグミンが選択されている[17]

誤ってシロバナヨウシュチョウセンアサガオをシチューに入れて食べてしまったため、家族6人が入院するという中毒事故が、米疾病対策センターによって報告されている[18]

人との関わり

シロバナヨウシュチョウセンアサガオの原産地候補である南アジアと北アメリカでは、宗教的な行事に用いられることがあった。ヒンドゥー教シヴァ神はダチュラの煙を吸うことで知られ、現在でも祭典や記念日には、その緑色の小さな果実がシヴァ寺院に納められる。シヴァラトリなどの祝祭では、ヒンズー教の平信徒は神への祈りに際してダチュラの煙ではなくマリファナの煙を使用する。ダチュラの煙を吸うことでどんな症状が表れるかは予測できず、致命的な結果になることもあり得る。またアルゴンキンやルイセーニョなどの北アメリカ先住民も本種を宗教的な儀式に用いる[19]

本種はアメリカ合衆国ではjimson weed (稀にjamestown weedとも) と呼ばれる。これらの呼称はバージニア州ジェームズタウンに由来する。1676年に起こったベイコンの反乱を鎮圧する為に、ジェームズタウンにイギリス軍人達が派遣された。そこで彼らはシロバナヨウシュチョウセンアサガオを毒草と知らずに食べ、中毒症状を起こしてしまった。彼らは摂取後およそ11日間、異常な精神状態になった。

ジェームズタウン・ウィード(私がそう呼んでいるアップルオブペルー(Nicandra)に似た植物)は世界でも有数の寒性の薬草であるように思われる。ベイコンの反乱 (1676) を鎮圧するために送られてきた兵士達はJames-Town Weedの若芽を集め、煮てサラダにして食べた。彼らの何人かはかなりの量を食べており、それから数日間は生まれついての馬鹿者のように変わってしまった。その異変はとても愉快な喜劇のようであった。ある兵士は宙に舞う羽をひたすら吹き上げ続け、もう一人の兵士はその兵士に向かって激怒しながら麦わらを投げ続けた。さらに別の兵士は全裸になり隅っこで猿のように座って、彼らに向かってしかめっ面をしたり歯を剥き出しにした。四人目の兵士は同僚達に向かってキスをしてまわった。また、べたべたと触りまくり、その顔の前で、どんなオランダ道化師よりも滑稽な表情で嘲笑したりした。

その狂気じみた様子から、彼らがその愚行によって自らを傷つけたりしないように監禁されることになった。しかし、彼らの行動は非常に無垢で、快活であるように見られた。ただ彼らは非常に不潔で、止められない限り糞便の上で転げまわったりした。このような悪ふざけを数えきれないほど行った後、11日後に彼らは正気を取り戻したが、その間の記憶は全く無かった。

– The History and Present State of Virginia, 1705[20]

シロバナヨウシュチョウセンアサガオは、イギリスでは悪名を得ている。マスコミがサフォーク州に自生していた本種をハリー・ポッターシリーズに登場する架空の植物デビルズスネアであると言った、2009年の夏枯れ時に書かれた記事のせいである[10][21][22][23] [24][25]

ギャラリー

  • ヨウシュチョウセンアサガオ (ムラサキチョウセンアサガオ)D. stramonium var. tatula の花
    ヨウシュチョウセンアサガオ (ムラサキチョウセンアサガオ)D. stramonium var. tatula の花
  • D. stramonium var. tatula
    D. stramonium var. tatula
  • D. stramonium var. tatula, 花 (正面)
    D. stramonium var. tatula, 花 (正面)
  • D. stramonium var. tatula, 花 (側面)
    D. stramonium var. tatula, 花 (側面)
  • D. stramonium 葉
    D. stramonium
  • D. stramonium var. tatula, 果実
    D. stramonium var. tatula, 果実
  • D. stramonium 種子
    D. stramonium 種子

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Datura stramonium L. f. stramonium シロバナチョウセンアサガオ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年8月24日閲覧。
  2. ^ “Datura stramonium information from NPGS/GRIN”. 2008年2月5日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 『世界の雑草 I -合弁花類-』全国農村教育協会、1987年、147-159頁、ISBN 4-88137-031-6
  4. ^ a b “Datura species”. Plants Poisonous to Livestock. Cornell University Department of Animal Science. 2010年2月12日閲覧。
  5. ^ a b AJ Giannini,Drugs of Abuse--Second Edition. Los Angeles, Practice Management Information Corporation, pp.48-51. ISBN 1-57066-053-0.
  6. ^ a b 麓次郎『季節の花事典』八坂書房、1999年、263-266頁、ISBN 4-89694-440-2
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 長田武正 1976, p. 114.
  8. ^ Culpeper, Nicholas (n.d.; 20th century edition of 1653 publication), Culpeper's Complete Herbal, Slough: W Foulsham & Co Ltd, pp. 368–369, ISBN 0-572 00203 3 
  9. ^ a b Preissel, Ulrike; Hans-Georg Preissel (2002). Brugmansia and Datura: Angel's Trumpets and Thorn Apples. Buffalo, New York: Firefly Books. pp. 124–125. ISBN 1-55209-598-3. http://www.allbookstores.com/author/Hans-Georg_Preissel.html 
  10. ^ a b c Mail Online, Pensioner finds deadly tropical plant made famous in Harry Potter book in her back garden 3:24 PM on 24th August 2009.
  11. ^ Stace, Clive (1997). New Flora of the British Isles. Cambridge University Press. p. 532 
  12. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Datura stramonium L. ヨウシュチョウセンアサガオ(広義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年8月24日閲覧。
  13. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Datura stramonium L. f. tatula (L.) B.Boivin ヨウシュチョウセンアサガオ(狭義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年8月24日閲覧。
  14. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Datura stramonium L. f. inermis (Juss. ex Jacq.) Hupke トゲナシチョウセンアサガオ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年8月24日閲覧。
  15. ^ 『園芸植物大事典 〈3〉』小学館、1989年、151頁、ISBN 4-09305-103-8
  16. ^ Freye, Enno (2009-09-21). Pharmacology and Abuse of Cocaine, Amphetamines, Ecstasy and Related Designer Drugs. Springer Netherlands. pp. 217–218. ISBN 978-90-481-2447-3. http://www.springerlink.com/content/u42k03r4v3234615/ 
  17. ^ “Datura Poisoning, Jimsonweed” (英語). Pacific School of Herbal Medicine (2002年). 2011年2月22日閲覧。
  18. ^ Bontoyan, W; et al (2010-02-05). “Jimsonweed Poisoning Associated with a Homemade Stew – Maryland, 2008”. Centers For Disease Control and Prevention – Morbidity and Mortality Weekly Report 59 (4): 102–103. http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm5904.pdf 2010年2月11日閲覧。. 
  19. ^ Davis, Wade. The Serpent and the Rainbow: a Harvard scientist's astonishing journey into the secret societies of Haitian voodoo, zombis and magic. New York: Simon & Schuster, 1985
  20. ^ Beverley, Robert. “Book II: Of the Natural Product and Conveniencies in Its Unimprov'd State, Before the English Went Thither”. The History and Present State of Virginia, In Four Parts (University of North Carolina): pp. Book II Page 24. http://docsouth.unc.edu/southlit/beverley/beverley.html 2008年12月15日閲覧。 
  21. ^ Deadly tropical plant grows in Suffolk garden. Daily Telegraph/Telegraph Online (6 August 2009).
  22. ^ Hallucinogenic Amazonian plant used to poison spear tips found growing in Suffolk garden. Daily Mail/Mail Online (7 August 2009).
  23. ^ Pensioner finds deadly tropical plant made famous in Harry Potter book in her back garden. Daily Mail/Mail Online (24 August 2009).
  24. ^ Deadly Harry Potter plant devil's snare turns up in Suffolk pensioner's garden. Horticulture Week (7 August 2009).
  25. ^ Suburban Grandpa Defeats Harry Potter’s The Devil’s Snare. Ecoworldly website (11 August 2009).

参考文献

  • 長田武正『原色日本帰化植物図鑑』保育社、1976年6月1日。ISBN 4-586-30053-1。 
  • Richard H. Uva, Joseph C. Neal and Joseph M. Ditomaso, Weeds of The Northeast, (Ithaca, NY: Cornell University Press, 1997), pp. 312–313.
  • Jimson Weed (Datura stramonium) Poisoning From Clinical Toxicology Review Dec 1995, Vol 18 (No 3). Reprinted at erowid.com.
  • 牧野日本植物図鑑(北隆館)

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、シロバナヨウシュチョウセンアサガオに関連するメディアがあります。
  • Photographs of Datura stramonium
  • USDA Natural Resources Conservation Service PLANTS Profile: Datura stramonium L.
  • USDA Germplasm Resources Information Network (GRIN): Datura stramonium L.
  • American Brugmansia and Datura Society - Extensive information on species, cultivation, etc.
  • Datura stramonium from A modern herbal by Mrs Grieve (1931)
  • Datura stramonium at Liber Herbarum II
  • Datura spp. at Erowid.org
  • Datura Poisoning - Pacific School of Herbal Medicine
  • Datura wrightii Specimen pictures and information