『ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド 』(ヴィーナスとオルガンそうしゃとキューピッド、英 : Venus with an Organist and Cupid )、または『アモールと音楽にくつろぐヴィーナス 』(アモールとおんがくにくつろぐヴィーナス、西 : Venus recreándose con el Amor y la Música )は、イタリア 盛期ルネサンス のヴェネツィア派 の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオ が1550年ごろ、キャンバス 上に油彩 で制作した絵画で[1] [2] 、画家の「ヴィーナスと音楽奏者 」を描いた作品のうちの1点である。1838年にスペイン の王室コレクションからマドリード のプラド美術館 に移されて以来、プラド美術館に所蔵されている[1] [2] 。
ティツィアーノは、愛の女神ヴィーナス をリュート 奏者とともに描いたフィッツウィリアム美術館の作品とメトロポリタン美術館の作品も描いているが、本作はプラド美術館の『ヴィーナスとオルガン奏者と犬 』[3] [4] 、ベルリン絵画館の『ヴィーナスとオルガン奏者』 同様、ヴィーナスをオルガン 奏者とともに描いている[1] [2] 。
作品 ティツィアーノ『ヴィーナスとオルガン奏者と犬 』、1550年ごろ。プラド美術館 ティツィアーノ『ヴィーナスとオルガン奏者』、155年ごろ。ベルリン絵画館 ヤコポ・ダ・ポントルモ 『ヴィーナスとキューピッド』、1533年。アカデミア美術館 (フィレンツェ)。ミケランジェロ の失われた絵画または下絵をもとにしている。 ティツィアーノの「ヴィーナスと音楽奏者」の絵画は、いずれにおいても庭園付きの邸宅を舞台に大窓の前に横たわるヴィーナスが表され、その足元にオルガン奏者、あるいはリュート奏者が登場する。音楽奏者は楽器を奏でつつヴィーナスの裸体を注視し、女神はその視線を避けるように子犬かキューピッド (アモール) の方へと顔を背けている[1] [2] 。
本作に関する最初の記録は、1626年にイタリアの学者で芸術庇護者であったカッシアーノ・ダル・ポッツォ(英語版) がマドリードのアルカサル (旧王宮)(英語版) の「夏の居室」で見たとするものである[1] [2] 。それ以前の歴史については推測の域を出ない[2] 。
本作は、プラド美術館の『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』をもとに描かれたものと考えられる[1] [2] 。最近のX線 調査により、『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』の制作過程における画家の試行錯誤の跡が発見され、「ヴィーナスと音楽奏者」の絵画の中で最も早く制作されたものであることが明らかとなった[3] [4] 。当初、横たわる女性像はオルガン奏者と視線を合わせていたが、おそらく挑発的すぎるという理由から、頭部が子犬の方向へと変更され、これを原型に本作を含む一連の「ヴィーナスと音楽奏者」の絵画が生み出されたのである[3] 。
『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』と本作の全体の構図は同一だが、いくつかの変更がなされた[2] 。最も重要なのは子犬の代わりにキューピッドを加えたことで、その結果ヴィーナスの上半身と頭部および左手の位置が変えられているる[1] [2] 。また、キューピッドの存在によって、裸婦がヴィーナスであることが確実になるとともに、同じ主題を扱ったミケランジェロ にもとづくカルトン (1532-1533年、バルトロメオ・ベッティーニによる) との関連がより明白になった[2] 。そのほか、重要ではない変更であるが、音楽家の年齢、風景の一部、ヴィーナスの下に敷かれている布やカーテンの配置が変えられている[1] [2] 。
解釈 『ヴィーナスとオルガン奏者』の諸作品については、さまざまな解釈がなされてきた。取り立てて意味のない官能的な作品と解釈する美術史家もいれば、高度に象徴 的な価値を見出そうとする見方もあるる[1] [2] 。後者の場合は、人文学 者マルコ・エクィコラ(英語版) が『愛の本質の書 (Libro di natura d'amore)』 (ヴェネツィア、1526年) に書いたように、視覚と聴覚を、美と調和を理解するための道具と見なす新プラトン主義 的な感覚の寓意 と解釈される。しかし、これらの作品が異なる時期と状況下で制作されたものであることからすると、すべてが同一の思想を反映しているとは思えない[2] 。
脚注 ^ a b c d e f g h i “Venus with an Organist and Cupid”. プラド美術館 公式サイト (英語). 2023年11月14日 閲覧。 ^ a b c d e f g h i j k l m プラド美術館展 スペインの誇り 巨匠たちの殿堂 2006年、144頁。 ^ a b c “Venus with an Organist and a Dog”. プラド美術館 公式サイト (英語). 2023年11月12日 閲覧。 ^ a b プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 2018年、146頁。
参考文献
外部リンク プラド美術館公式サイト、ティツィアーノ『ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド』 (英語)
世俗画 『田園の奏楽 』(1509年) 『アドニスの誕生 』(1505年-1510年頃) 『ポリュドロスの森 』(1505年-1510年頃) 『合奏』(1510年頃) 『眠れるヴィーナス 』(共作、1510年頃) 『懇願』(共作、1510年頃) 『恋人たち』(ティツィアーノ帰属、1510年頃) 『人生の三世代』(1512年-1514年) 『聖愛と俗愛 』(1514年頃) 『神々の饗宴 』(1514年頃) 『ヴィオランテ』(1510年-1515年頃) 『笛を持つ少年 』(ティツィアーノ帰属、1510年-1515年頃) 『鏡の前の女 』(1515年頃) 『フローラ』(1515年頃) 『サロメ』(1515年頃) 『ルクレティアと夫 』(1515年頃) 『ヴィーナスへの奉献 』(1518年-1519年) 『刺客』(1515年-1520年頃) 『海から上がるヴィーナス』(1520年頃) 『バッカスとアリアドネ 』(1520年–1523年頃) 『アンドロス島のバッカス祭 』(1523年–1526年頃) 『結婚の寓意 』(1530年-1535年頃) 『ウルビーノのヴィーナス 』(1538年頃) 『軍隊に演説するアルフォンソ・ダヴァロス 』(1540-1541年頃) 『ダナエ』(1543年–1565年頃 プラド美術館 · エルミタージュ美術館 ) 『シシュポス』(1548年-1549年) 『ヴィーナスとオルガン奏者と犬 』(1550年頃) 『ヴィーナスとオルガン奏者(ベルリン絵画館) 』(1550年頃) 『パルドのヴィーナス 』(1551年) 『ヴィーナスとアドニス』(1554年 プラド美術館 ) 『鏡を見るヴィーナス』(1555年頃) 『ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド』(1555年頃) 『サロメ』(1555年頃) 『ペルセウスとアンドロメダ』(1554年-1556年) 『ディアナとアクタイオン 』(1556年–1559年頃) 『ディアナとカリスト』(1556年–1559年頃) 『エウロペの略奪』(1560年–1562年頃) 『賢明の寓意 』(1550-1565年頃) 『ヴィーナスとキューピッドとリュート奏者(フィッツウィリアム美術館) 』(1555年-1565年頃) 『ティテュオス』(1565年頃) 『キューピッドに目隠しをするヴィーナス 』(1565年頃) 『ヴィーナスと音楽奏者 』(1550年-1570年頃) 『ヴィーナスとキューピッドとリュート奏者(メトロポリタン美術館) 』(1565-1570年頃) 『アクタイオンの死 』(1559年-1576年頃) 『タルクィニウスとルクレティア 』(1571年) 『マルシュアスの皮剥ぎ』(1570年–1576年頃) 肖像画 宗教画 『聖母子とパドヴァの聖アントニウス、聖ロクス 』(1508年頃) 『十字架を担うキリスト』(1510年頃) 『聖家族と羊飼い 』(1510年頃) 『新生児の奇蹟 』(1511年) 『ジプシーの聖母 』(1511年頃) 『キリストの洗礼』(1511年-1512年頃) 『大天使ラファエルとトビアス』(1512年-1514年頃) 『ノリ・メ・タンゲレ』(1514年頃) 『サクランボの聖母 』(1515年) 『貢の銭』(1516年) 『聖母子と聖ドロテア、聖ゲオルギウス 』(1516年–1518年頃) 『聖母被昇天』(1516年–1518年頃) 『受胎告知(トレヴィーゾ大聖堂) 』(1520年頃) 『キリストの埋葬(ルーヴル美術館) 』(1520年頃) 『アヴェロルディ家の祭壇画 』(1520年–1522年) 『ペーザロ家の祭壇画 』(1519年–1526年頃) 『聖母子と聖カテリナと羊飼い 』(1530年頃) 『アルドブランディーニの聖母』(1532年頃) 『悔悛するマグダラのマリア(パラティーナ美術館) 』(1533年頃) 『受胎告知(サン・ロッコ大同信会) 』(1535年頃) 『聖母の神殿奉献』(1534年-1538年頃) 『シャッラの聖母 』(1540年年頃) 『洗礼者聖ヨハネ』(1540年-1542年頃) 『荊冠のキリスト(ルーヴル美術館) 』(1542年-1543年) 『この人を見よ(ウィーン) 』(1543年) 『悔悛するマグダラのマリア(カポディモンテ美術館) 』(1550年頃) 『アダムとイヴ』(1550年頃) 『ラ・グロリア(聖三位一体の礼拝)』(1551年-1554年) 『聖ラウレンティウスの殉教』(1548年-1559年頃) 『キリストの埋葬(プラド美術館) 』(1559年) 『ゲツセマネの祈り』(1558年-1562年頃) 『受胎告知(サン・サルバドール教会) 』(1559年-1564年頃) 『アルベルティーニの聖母 』(1560年–1565年頃) 『悔悛するマグダラのマリア(エルミタージュ美術館) 』(1565年頃) 『聖マルガリタ』(1565年頃) 『祝福するキリスト』(1570年頃) 『荊冠のキリスト(ミュンヘン) 』(1570年頃) 『聖セバスティアヌス』(1570年-1572年) 『スペインによって救済される宗教 』(1572年-1575年) 『ピエタ』(1575年-1576年) 関連項目 カテゴリ