修身要領
修身要領 (しゅうしんようりょう) 脩身要領 | ||
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編集者 | 慶應義塾 | |
発行日 | 1901年(明治34年)7月25日 | |
発行元 | 福澤三八 | |
ジャンル | 教訓集 | |
国 | 日本 | |
言語 | 日本語 | |
形態 | 和装本 | |
ページ数 | 26丁 | |
公式サイト | NDLJP:756679 | |
ウィキポータル 文学 | ||
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『修身要領』(しゅうしんようりょう)は慶應義塾が編纂した教訓集である。正式名称は『脩身要領』。福澤諭吉の『修身要領』として知られているが、福澤が編纂したものではなく、実際には、福澤の弟子や子息が集まって編纂したものである。
成立
福澤は、1898年(明治31年)から『時事新報』に連載された『福翁自伝』の最後で、「私の生涯の
内容
以下、福沢 (1980)からの引用を含む[4]。
『修身要領』の内容は、「独立自尊」(どくりつじそん)を基本にする29ヵ条の教訓から構成される。
独立自尊の定義
- 第二条
- 心身の独立を全うし、
自 ()から其身を尊重して、人たるの品位を辱 ()めざるもの、之を独立自尊の人と云ふ。
個人の独立自尊
- 第一条
- 人は人たるの品位を進め、智徳を
研 ()き、ます〱其光輝を発揚するを以て、本分と為 ()さざる可 ()らず。吾党の男女は、独立自尊の主義を以て修身処世の要領と為 ()し、之を服膺 ()して、人たるの本分を全 ()うす可 ()きものなり。 - 第三条
自 ()から労して自から食 ()ふは、人生独立の本源なり。独立自尊の人は自労自活の人たらざる可 ()らず。- 第四条
- 身体を大切にし健康を保つは、人間
生々 ()の道に欠く可らざるの要務なり。常に心身を快活にして、苟 ()めにも健康を害するの不養生を戒む可 ()し。 - 第五条
- 天寿を全うするは人の本分を尽すものなり。原因事情の
如何 ()を問はず、自 ()から生命を害するは、独立自尊の旨に反する背理卑怯の行為にして、最も賤 ()む可き所なり。 - 第六条
敢為活溌 ()堅忍不屈 ()の精神を以てするに非ざれば、独立自尊の主義を実 ()にするを得ず。人は進取確守の勇気を欠く可 ()らず。- 第七条
- 独立自尊の人は、一身の進退方向を他に依頼せずして、
自 ()から思慮判断するの智力を具へざる可らず。
家族の独立自尊
- 第八条
- 男尊女卑は野蛮の
陋習 ()なり。文明の男女は同等同位、互に相 ()敬愛 ()して各 ()その独立自尊を全 ()からしむ可 ()し。 - 第九条
- 結婚は人生の重大事なれば、配偶の撰択は最も慎重ならざる可らず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、互いに独立自尊を犯さゞるは、人倫の始なり。
- 第十条
- 一夫一婦の間に生るゝ子女は、其父母の
他 ()に父母なく、其子女の他に子女なし。親子の愛は真純の親愛にして、之を傷 ()けざるは一家幸福の基 ()なり。 - 第十一条
- 子女も亦独立自尊の人なれども、其幼時に
在 ()ては、父母これが教養の責 ()に任ぜざる可 ()らず。子女たるものは、父母の訓誨に従 ()て孜々 ()勉励、成長の後、独立自尊の男女として世に立つの素養を成す可 ()きものなり。 - 第十二条
- 独立自尊の人たるを期するには、男女共に、成人の後にも、
自 ()から学問を勉め、知識を開発し、徳性を修養するの心掛を怠る可らず。
社会人の独立自尊
- 第十三条
- 一家より数家、次第に相集りて、社会の組織を成す。健全なる社会の
基 ()は、一人一家の独立自尊に在りと知る可し。 - 第十四条
- 社会共存の道は、
人々 ()自 ()から権利を護り幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重して、苟 ()も之を犯すことなく、以て自他の独立自尊を傷 ()けざるに在り。 - 第十五条
怨 ()を構へ仇 ()を報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱を雪 ()ぎ名誉を全うするには、須 ()らく公明の手段を択 ()むべし。- 第十六条
- 人は
自 ()から従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、苟 ()も責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。 - 第十七条
- 人に
交 ()るには信を以てす可し。己 ()れ人を信じて人も亦己れを信ず。人々 ()相信じて始めて自他の独立自尊を実 ()にするを得べし。 - 第十八条
- 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、
苟 ()めにも之を忽 ()にす可らず。只 ()その過不及 ()なきを要するのみ。 - 第十九条
- 己れを愛するの情を
拡 ()めて他人に及ぼし、其疾苦を軽減し其福利を増進するに勉むるは、博愛の行為にして、人間の美徳なり。 - 第二十条
- 博愛の情は、同類の人間に対するに止まる可らず。禽獣を虐待し又は無益の
殺生 ()を為 ()すが如き、人の戒む可き所なり。 - 第二十一条
- 文芸の
嗜 ()は、人の品性を高くし精神を娯 ()ましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦是 ()れ人間要務の一なりと知る可し。
国民の独立自尊
- 第二十二条
- 国あれば必ず政府あり。政府は政令を行ひ、軍備を設け、一国の男女を保護して、其身体、生命、財産、名誉、自由を侵害せしめざるを任務と
為 ()す。是 ()を以て国民は軍事に服し国費を負担するの義務あり。 - 第二十三条
- 軍事に服し国費を負担すれば、国の立法に参与し国費の用途を監督するは、国民の権利にして又其義務なり。
- 第二十四条
- 日本国民は男女を問はず、国の独立自尊を維持するが為めには、生命財産を
賭 ()して敵国と戦ふの義務あるを忘る可らず。 - 第二十五条
- 国法を
遵奉 ()するは国民たるものゝ義務なり。単にこれを遵奉するに止まらず、進んで其執行を幇助 ()し、社会の秩序安寧を維持するの義務あるものとす。
国家の独立自尊
- 第二十六条
- 地球上立国の数少なからずして、
各 ()その宗教、言語、習俗を殊にすと雖も、其国人は等しく是 ()れ同類の人間なれば、之と交 ()るには苟 ()も軽重厚薄の別ある可らず。独 ()り自 ()ら尊大にして他国人を蔑視 ()するは、独立自尊の旨に反するものなり。
教育と文明の重要性
- 第二十七条
- 吾々
今代 ()の人民は、先代前人より継承したる社会の文明福利を増進して、之を子孫後世に伝ふるの義務を尽さざる可らず。 - 第二十八条
- 人の世に生るゝ、智愚強弱の差なきを得ず。智強の数を増し愚弱の数を減ずるは教育の力に在り。教育は即ち人に独立自尊の道を教へて之を躬行実践するの
工風 ()を啓 ()くものなり。 - 第二十九条
- 吾党の男女は、
自 ()ら此要領を服膺 ()するのみならず、広く之を社会一般に及ぼし、天下万衆と共に相率 ()ゐて、最大幸福の域に進むを期するものなり。
特徴
『修身要領』の特徴は、前書きで「徳教は人文の進歩と共に変化するの約束」と言うように、道徳が時代とともに変化すると述べていることである。そのため、『教育勅語』に反するものとして攻撃された[5]。もし道徳が時代とともに変化するのであれば、『教育勅語』や『修身要領』自体の内容も時代とともに修正・変更する必要があることになる。
脚注
書誌情報
- 福澤一太郎 等述『修身要領講演』慶應義塾、1900年10月22日。NDLJP:1086549。
- 福澤一太郎 等が『修身要領』の内容を講演したもの。『修身要領』の原文とその解説が収録されている。
- 福澤諭吉『修身要領』福澤三八、1901年7月25日。NDLJP:756679。
- 1900年(明治33年)に福澤が全文を揮毫したもの。福澤が前書も揮毫している。
- 富田正文・宮崎友愛 編『福澤文選』 全1巻、慶應義塾出版局、1937年4月23日、1-16頁。
- 『修身要領』の原文とその英訳 Fukuzawa's moral code が第一章に収録されている。
- 『福澤諭吉全集』 第21巻(再版)、岩波書店、1971年6月30日、353-356頁。
- 『修身要領』の全文が旧字旧仮名で収録されている。
- 『福沢諭吉選集』 第3巻、岩波書店、1980年12月18日、291-296頁。ISBN 4-00-331022-5。
- 『修身要領』の全文が新字旧仮名で収録されている。
- 福沢諭吉『学問のすすめ 他一篇 真の独立人になるために』加賀義 現代語訳、幸福の科学出版〈教養の大陸BOOKS〉、2009年10月6日、267-275頁。ISBN 978-4-86395-002-3。
- 巻末の267-275頁に『修身要領』の現代語訳を収録している。
英訳
- Sale, Joseph (1907-06). “The Moral Code of Yukichi Fukuzawa”. The Open Court (The Open Court Publishing Company) XXI (613): 321-329. http://opensiuc.lib.siu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=2114&context=ocj.
- Joseph Saleによる英訳 "The Moral Code of Yukichi Fukuzawa."
- Captain Brinkley「FUKUZAWA'S MORAL CODE. 福澤翁の修身要領」『英語青年』第22巻第7号、英語青年社、1910年1月1日、ISSN 0287-2706。
- Captain Brinkley「FUKUZAWA'S MORAL CODE. 福澤翁の修身要領」『英語青年』第22巻第8号、英語青年社、1910年1月15日、ISSN 0287-2706。
- ブリンクリーによる英訳 "FUKUZAWA'S MORAL CODE."
- 澤木智惠子「F・ブリンクリーによる福沢諭吉 「修身要領」 の英訳と日英博覧会」『教養デザイン研究論集』第10巻、2016年9月9日、1-21頁、ISSN 2185-6966。
- “Fukuzawa's Moral Code”. 慶應義塾普通部. 2017年9月6日閲覧。
参考文献
- 北岡伸一『独立自尊 福沢諭吉の挑戦』講談社、2002年4月、327-329頁。ISBN 4-06-210504-7。
- 「第十五章 晩年と死」の327-329頁に『修身要領』の解説がある。
- 慶應義塾史事典編集委員会 編『慶應義塾史事典』慶應義塾大学出版会、2008年11月8日、61-62,317-318頁。ISBN 978-4-7664-1572-8。
- 61-62頁に坂井達朗による修身要領の解説と米山光儀による「「修身要領」普及講演会」についての解説がある。317-318頁の岩崎弘による「子供たる身の独立自尊」に「幼稚舎生の修身要領六箇条」・「幼稚舎修身要領十箇条」についての解説がある。
- 清水義範『福沢諭吉は謎だらけ。 心訓小説』小学館、2006年10月10日、114-118頁。ISBN 4-09-386167-6。
- 「四、福沢は教訓の名人だったことがわかる章」の114-118頁で『修身要領』を紹介している。
- 福澤諭吉事典編集委員会 編『福澤諭吉事典』慶應義塾大学出版会、2010年12月25日、336-340頁。ISBN 978-4-7664-1800-2。
- 336-340頁で米山光儀による「修身要領の編纂経緯」・「修身要領の内容」・「修身要領の反響」・「修身要領の普及活動」についての解説がある。
関連項目
外部リンク
- 『修身要領』:新字旧仮名 - 青空文庫
- 『修身要領』 - 国立国会図書館
- 1900年(明治33年)に福澤が全文を揮毫したもの。福澤が前書も揮毫している。
- 修身要領 - Google ブックス
- 『慶應義塾豆百科』 No.59 修身要領
- “『修身要領』”. 三田会. 2008年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年9月9日閲覧。
- 1951年(昭和26年)5月に発行された版から、全文が引用されている。
- “第9回:時代を読む ——日本のアイデンティーとは--福沢諭吉の修身のすすめ———”. 日本経営合理化協会出版局. 2001年4月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年9月9日閲覧。
- 勝俣銓吉郎編『和英名家訳例集』〈復刻版〉、名著普及会、1985年、ISBN 4-89551-221-5 から、修身要領の全文を引用している。
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