日本国憲法第2条

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(にほんこく(にっぽんこく)けんぽう だい2じょう)は、日本国憲法第1章天皇」にある条文の一つ。皇位継承について規定する。

条文

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第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

解説

日本国憲法第2条は、第14条の例外として、皇位の世襲制を規定するが、詳細については、皇室典範の規定に委ねられている。

ここで「国会の議決した皇室典範」と規定されているのは、先行する大日本帝国憲法においては、第74条第1項において皇室典範の改正には帝国議会の議決を要しない旨が規定され、皇室につき規定する皇室典範は、通常の法律とは別格のものとして取扱われていた点が背景として挙げられる。

日本国憲法第1条において国民主権象徴天皇制が規定されているのを受け、日本国民の総意に基づき象徴とされた天皇の地位の継承については、国会の議決に基づく皇室典範により決定することを是とするものである。

先行する大日本帝国憲法においては、第2条において皇位は「皇男子孫」が承継するものであることが憲法上規定されていた。

沿革

大日本帝国憲法

東京法律研究会 p.6/13

第二條
皇位ハ皇室典範ノ定ムル所󠄁ニ依リ皇男子孫之ヲ繼承ス
第七十四條
皇室典範ノ改正ハ帝󠄁國議會ノ議ヲ經ルヲ要󠄁セス
皇室典範ヲ以テ此ノ憲󠄁法ノ條規ヲ變更󠄁スルコトヲ得ス
第七十五條
憲󠄁法及󠄁皇室典範ハ攝政ヲ置クノ閒󠄁之ヲ變更󠄁スルコトヲ得ス

憲法改正要綱

「憲法改正要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

三十三
憲法及皇室典範変更ノ制限ニ関スル第七十五条ノ規定ヲ削除スルコト

マッカーサー三原則(マッカーサー・ノート)

マッカーサー3原則(「マッカーサーノート」) 1946年2月3日、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

訳文は、「高柳賢三ほか編著『日本国憲法制定の過程:連合国総司令部側の記録による I』有斐閣、1972年、99頁」を参照。

1.天皇は国家の元首の地位にある。皇位は世襲される。天皇の職務および権能は、憲法に基づき行使され、憲法に表明された国民の基本的意思に応えるものとする。

Emperor is at the head of the state.His succession is dynastic.His duties and powers will be exercised in accordance with the Constitution and responsive to the basic will of the people as provided therein.

GHQ草案

「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

日本語

第二条
皇位ノ継承ハ世襲ニシテ国会ノ制定スル皇室典範ニ依ルヘシ

英語

Article II.
Succession to the Imperial Throne shall be dynastic and in accordance with such Imperial House Law as the Diet may enact.

憲法改正草案要綱

「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第二
皇位ハ国会ノ議決ヲ経タル皇室典範ノ定ムル所ニ依リ世襲シテ之ヲ継承スルコト

憲法改正草案

「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

政府見解

日本国憲法第2条の『世襲』は男系を意味するという政府見解
  • 「抑々世襲という観念は、伝統的歴史的観念であって・・然らば皇位の世襲と云う場合の世襲はどんな内容を持つか。典範義解はこれを(一)皇祚を践むは皇胤に限る (二)皇祚を祚むは男系に限る (三)皇祚は一系にして分裂すばからざることの三点に要約している。そしてこれは歴史上一の例外もなくつづいて来た客観的事実にもとづく原則である。世襲という観念の内容について他によるべき基準がない以上、これによらなければならぬ。そうすれば少なくとも女系ということは皇位の世襲の観念の中に含まれていないと云えるであろう」(昭和21年7月25日、宮内省)[1]
  • 「少なくとも女系ということは皇位の世襲の観念の中に含まれていないと云えるであろう」(「皇室典範に関する想定問答」S21.11)[2][3]
  • 「我が国肇国以来の万世一系と申しますのは男系に依るものでありまして、此のことは歴史上に於きましても客観的事実でありまして、女帝(女系)は唯皇位世襲の観念の中には含まれていない」(臨時法制調査会第三回総会、昭和21年10月22日)[4]
  • 「男系ということを、動かすべからざる一つの皇位継承の原理として考えております」(金森徳次郎国務大臣答弁、昭和21年12月5日)[2]
  • 「男系でなければならぬという云うことはもう日本国民の確信というべきものであろうと存じます」(金森徳次郎国務大臣答弁、昭和21年12月16日)[2]
  • 「古来の日本の国民の一つの総意と申しますか、国民の信念と申しますか、つまり男系相続ということで実は一貫して参っておるような状況でございます」(林修三内閣法制局長官、昭和34年2月6日)[5]
  • 「男系をもって貫くということが、世襲の精神に合うものではないか」(宇佐美毅宮内庁長官、昭和39年3月13日)[5]
  • 「皇位は世襲であるというように憲法二条で書いてありました、・・原則は男子である」(瓜生順良宮内庁次長、昭和43年4月3日)[5]
  • 「日本の歴史、伝統というものから考えれば、男系の男子ということで世襲してくことを続けていくことが適当ではないか」(山本悟宮内庁次長、昭和55年3月27日)[5]
  • 「男系の男子が皇位を継承されるというのが、わが国古来の伝統」(角田礼次郎内閣法制局長官、昭和58年4月4日)[5]
  • 「皇位が世襲ということは、日本の伝統的なものを背景にいたしまして考えていくべきであるということから、・・・男系男子が皇位を継承すると、こういう定めになっておるわけでございます」(宮尾盤宮内庁次長、平成4年4月7日)[5]
  • 「この規定は皇統に属する男系の男子が皇位を継承するという伝統を背景として決定されたものでございます」(加藤紘一官房長官、平成4年4月7日)[6]
  • 「政府としては、男系継承が古来例外なく維持されてきたことを認識し、そのことの重みを受け止めつつ、皇位継承制度のあり方を検討すべきである」(安倍晋三官房長官、平成18年)[7]
日本国憲法第2条の『世襲』には女系も含まれるという政府見解
  • 「『皇統』とは、天皇に連なる血族のことであり、男系及び女系の両方の系統を含むものと考える」(福田康夫官房長官、平成13年)[7]

学説

日本国憲法第2条の『世襲』に女系を含むという学説
  • 「現行憲法の天皇制度において過去の天皇家の慣習に従う必要はなない。「女系」を認めることは、皇位継承資格者の範囲を拡大することになり、継承順位原則における近親主義から言って望ましい」(横田耕一、芦部信喜監修「注釈憲法(1)総説・上論・題名・前文」2000年171頁)[8]
  • 「皇統は観念上は男女両系を含み得る」(園部逸夫「皇室法概論」)[8]
日本国憲法第2条の『世襲』は男系を指すという学説
  • 「皇統は専ら男系に依り女系に拘らないことは、我が古来の成法であって歴史上にも嘗て其の変例はない」(美濃部達吉「日本国憲法原論」昭和25年、247頁)[8]
  • 「わが国では、皇族の身分をもたない皇位継承の資格はないが、皇族の身分をもつためには、かならず「男系」により皇統に属することが必要であるから、ここでとくに「男系」という必要はない」(宮沢俊儀「憲法(改訂版)」昭和55年、184頁)[8]
  • 「日本の歴史においても男系の女子までの先例はあるが、女系の先例はなく、女系まで認めるとすれば国家の根本の相当大きな変更になる」(田上穣治「憲法調査会報告書付属文書第一号、憲法調査会における各委員会の意見」昭和39年、252頁)[9]
  • 「『皇統』には二つの解釈がありうる。一はたんに天皇の血統と解するもので、他は、さらにその系統が歴史的には男系によってのみ成立してきたことに着目して、男系制をもよみこむものである。後説を正当としようが、この見解によれば第一条の『男系の』という限定は、注意的訓示にすぎないことになる(同旨、明治典範義解)」(小嶋和司「憲法概説」昭和62年、296‐297頁)[9]
  • 「「マカーサ―・ノート」に「The Emperorは、国の元首の地位にある。His successionはdynasicである」と記されていることを取り上げ、これは「立憲君主制を王朝支配的にとらえ、現王朝を前提として、王朝に属するものが王朝にふさわしいルールで継承すべきことを要求するもの」であり、「王朝形成原理の維持、つまり男系主義の維持を要求するものとは解せても、その変更を要求するとは解しえない」(小嶋和司「『女帝』論議」「小嶋和司憲法論集 二 憲法と政治機構」1989年、63‐65頁)[9]
  • 「『皇統』は歴史的に『男系』であることが求められた。皇室典範第一条が『皇統に属する男系』とするのは、それを確認するものである」(佐藤幸治「憲法」(第三版)平成7年、248頁)[9]
  • 「皇位継承が常に男系によって行われてきたのは紛れもない歴史的事実であり、これはわが国古来の『不文の憲法』に基づくものであった。そして、この二千年近くの長きにわたって守られてきた不文の憲法を成文化したのが、明治憲法であった。・・このようなわが国の歴史・伝統を踏まえて考えるならば、明治憲法を受け継いだ現行憲法第二条の『世襲』は、明治憲法と同様、男系を指すと見るのが自然であろう」(百地章「憲法における天皇と国家」2024年、11頁)[10]


関連条文

関連項目

脚注

  1. ^ 芦部信喜・高見勝利 1990, p. 79.
  2. ^ a b c 百地章 2024, p. 5.
  3. ^ 芦部信喜・高見勝利 1990, p. 190.
  4. ^ 芦部信喜・高見勝利 1990, p. 91.
  5. ^ a b c d e f 百地章 2024, p. 6.
  6. ^ 百地章 2024, p. 6‐7.
  7. ^ a b 百地章 2024, p. 8.
  8. ^ a b c d 百地章 2024, p. 9.
  9. ^ a b c d 百地章 2024, p. 10.
  10. ^ 百地章 2024, p. 11.

参考文献

  • 百地章『憲法における天皇と国家』成文堂、2024年3月20日。 
  • 芦部信喜・高見勝利監修『日本立法資料全集1皇室典範(昭和22年)』信山社、1990年9月28日。 
  • 東京法律研究会『大日本六法全書』井上一書堂、1906年(明治39年)。 

外部リンク

  • 宮内庁(皇位継承)
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