30,000トン型巡視船

30,000トン型巡視船
基本情報
艦種 巡視船
運用者  海上保安庁
就役期間 2029年予定
計画数 2隻程度
要目
総トン数 30,000トン程度
全長 200m
最大幅 27m
搭載機 ヘリコプター×3機
その他 ゴムボート多数搭載
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30,000トン型巡視船(30,000トンがたじゅんしせん)は、海上保安庁が建造を検討している巡視船の船級[1][2]。建造費は約680億円[3]

なお「30,000トン」とは公称船型ではなく俗称であり、予算上の名称は大型巡視船(多目的型)である[4]

来歴

2012年9月の尖閣諸島国有化以降、同諸島周辺海域では中国政府の公船の徘徊や領海侵入等の事案の頻度が増加しており、海上保安庁では、同海域を担当する第十一管区海上保安本部領海警備専従部隊を設置して対応にあたってきた[5]。しかし中国側が多数の小型船を動員して上陸を図った場合、従来の巡視船では手が回りきらず、上陸を許す恐れが指摘されていた[1][2]

また台湾有事などが発生した場合、海上保安庁は、同海域を含む南西諸島において武力攻撃事態等における国民保護の一環として住民避難を担うことが想定されており[6]、2023年6月には、防衛大臣の統制下で住民を乗せて避難させることを想定し、ジュネーヴ条約で定められた特殊標章を巡視船に掲げての訓練が実施された[7]

これらの状況に対し、海上保安庁では、多数の小型舟艇を運用して海上警備を行うとともに、優れた輸送力によって災害派遣や住民避難にも活用可能な巡視船の整備が検討されるようになった[1][2][8]。まず令和5年(2023年)度予算において数千万円を計上し、船の基本構造に関する設計前の調査を民間企業に依頼して、2024年3月に報告書を受け取った[1]。これを踏まえて、同年6月には海保巡視船の中で最大規模となる30,000トン級の「多目的型巡視船」を最大2隻建造する方針を固め、2025年度予算に盛り込み、2029年度に実用化することとした[2]。2024年8月27日に公表された「令和7年度海上保安庁関係予算概算要求概要」において、正式に計画が公表された(隻数は1隻、項目は大規模・重大事案同時発生時に対応できる強靭な事案対処能力)[9]

設計

現在海上保安庁が保有する最大級の巡視船であるれいめい型巡視船の総トン数は公称6,500トン、専門誌では7,300トン(銘板記載)として扱われているが、本型はその4倍以上となる30,000トン級となる予定である。ゴムボート複数やヘリコプター3機を搭載、住民など1,500人が乗船できるスペースや、コンテナ運搬用のスペースを確保する予定であり、有事の際の住民の輸送、自然災害への対応などで運用することを検討しているという[1]。ただし直接に領海警備を実施することは想定しておらず、機関砲も搭載しないとされる[8]

なお専門誌である『世界の艦船』誌では、このように人員輸送能力に優れた大型船の整備構想は、海上保安庁を国民保護活動に活用しようという現在の動向とは符合することを指摘する一方、れいめい型しゅんこう型など現在整備が進むPLHと比べてあまりに大きいことから、各種の検討はこれから進められていくものと推測している[10]

令和7年度予算概算要求に係る新規事業採択時評価結果一覧 (令和6年8月末時点)[11]によると、事業名は大型巡視船(多目的型)1隻建造。運用開始、令和11年度。本事業で大型巡視船(多目的型)を整備することにより、期待される業務上の効果は以下のとおり。 ① 耐航性、長期行動能力等の船体性能を得ることが出来る。 ② 高度な指揮機能を得ることが出来る。 ③ ヘリコプターや搭載艇の高い運用能力を得ることが出来る。 ④ 人員・物資の高い輸送能力を得ることが出来る。 ⑤ 陸上部署、他の船艇、航空機との情報共有及び高い情報処理能力を得ることが出来る。 ⑥ 他船への補給能力を得ることが出来る。であり、イメージ図として船首甲板上に多目的クレーン、船首右舷側にランプウェイ、ヘリ格納庫、2機運用可能なヘリ甲板(図上では甲板上に3機)、搭載艇(図上では中部右舷側に救命艇1艇、警備救難艇らしき艇1艇、右舷後部ヘリ甲板下に警備救難艇らしき艇3艇)が描かれている。船の大きさ、詳細数値はこの新規事業採択時評価結果においては総トン数、全長、全幅等数値は公表されておらず未知数。また先行する数値やイメージ図は予算決定、建造までの間に予算決定時の状況や実際の設計、建造過程等において変更になる可能性もある。

海上保安新聞発行日(9/15号) によるとヘリ3機対応の格納庫、同時2機運用とあり、常時はヘリは搭載しない(PLHではない)との記載がある。[12]

脚注

[脚注の使い方]

出典

  1. ^ a b c d e 「海保 ゴムボート多数搭載の巡視船建造を検討 尖閣対応を念頭に」『NHKニュース』2024年6月7日。2024年6月10日閲覧。
  2. ^ a b c d 「海保最大の巡視船建造で「海上基地」、尖閣への上陸阻止や台湾有事の避難想定」『読売新聞オンライン』2024年6月8日。2024年6月10日閲覧。
  3. ^ 「海保、超大型の巡視船整備へ 概算要求、過去最大に」『共同通信』2024年8月27日。
  4. ^ “国土交通省の政策評価 (令和7年度予算概算要求等関係)”. 国土交通省. 2024年9月2日閲覧。
  5. ^ 滝川 2014.
  6. ^ 中林 2018, pp. 92–93.
  7. ^ 「海自、海保が初の共同実動訓練 特殊標章の見え方も確認」『産経新聞』2023年6月22日。
  8. ^ a b 増山 2024.
  9. ^ 海上保安庁『令和7年度海上保安庁関係予算概算要求概要』2024年。https://www.kaiho.mlit.go.jp/soubi-yosan/2024/08/27/nyusatsu/koukoku/201502/shiyousyo/R7youkyugaiyou.pdf2024年8月27日閲覧 
  10. ^ 「新しい大型船構想に関する情報について」『世界の艦船』、海人社、2024年6月24日。https://www.ships-net.co.jp/%e2%97%8f%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%84%e5%a4%a7%e5%9e%8b%e8%88%b9%e6%a7%8b%e6%83%b3%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%83%85%e5%a0%b1%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/ 
  11. ^ “令和7年度予算概算要求に係る新規事業採択時評価結果一覧 (令和6年8月末時点)”. 海上保安庁. 2024年9月5日閲覧。
  12. ^ “海上保安新聞発行日(9/15号)”. x. 2024年9月5日閲覧。

参考文献

  • 滝川徹「注目の尖閣警備専従部隊 (特集 海上保安庁)」『世界の艦船』第800号、海人社、132-135頁、2014年7月。 NAID 40020105611。 
  • 中林啓修「先島諸島をめぐる武力攻撃事態と国民保護法制の現代的課題―島外への避難と自治体の役割に焦点をあてて」『国際安全保障』第46巻、第1号、国際安全保障学会、88-106頁、2018年6月。doi:10.57292/kokusaianzenhosho.46.1_88。CRID 1390291767626871296。 
  • 増山祐史「最大級の巡視船導入へ 1千人を輸送、自衛隊との訓練も 海上保安庁」『朝日新聞』2024年8月27日。https://www.asahi.com/articles/ASS8W02T7S8WUTIL023M.html 
海上保安庁旗海上保安庁巡視船
×は退役済・{ }は将来計画
大型巡視船
(PLH/PL)
2機搭載型
  • みずほ型 (初代)
  • ×しきしま (初代)
  • あきつしま
  • みずほ (2代)
  • しゅんこう型
1機搭載型
5,500t型
  • いつくしま
3,500t型
3,000t型
  • こじま (3代)
  • みうら (3代)
2,000t型
900~1,100t型
700t型
  • ×だいおう型 (初代)
旧海軍艦艇
  • ×栗橋
  • ×みうら
  • ×おじか型 (初代)
  • ×宗谷
中型巡視船
(PM)
500t型
450t型
  • ×あわじ型
  • ×れぶん型
  • ×ちふり型
350t型
小型巡視船
(PS)
350t型
  • ×とかち型
  • ×てしお (初代)
  • ×やはぎ型
  • ×まつうら型
270t型
  • ×くま型
  • ×のしろ型
高特船型
180t型
130t型
  • ×ひだか型
  • ×つくば (初代)
  • ×あかぎ (初代)
  • ×びざん型 (初代)
  • ×あかぎ型 (2代)
  • たかつき型
ARB型
  • ×いそちどり型
  • ×かわちどり型
  • ×さわちどり型
  • ×いわちどり
  • ×さよちどり
  • ×かばしま
ASC型
  • ×かささぎ型
消防船 (FL)
  • ×ひりゆう型 (初代)
  • ひりゆう (2代)
未分類
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