ピアノソナタ第11番 (モーツァルト)

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第1楽章「主題

第1楽章「第1変奏

第1楽章「第2変奏

第1楽章「第3変奏

第1楽章「第4変奏

第1楽章「第5変奏

第1楽章「第6変奏

第2楽章「メヌエット

第3楽章「トルコ行進曲

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ピアノソナタ第11番 イ長調 K. 331 (300i) は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したピアノソナタである。

第3楽章が有名な「トルコ行進曲」であるため、「トルコ行進曲付き」と呼ばれることが多い。またこの楽章だけが単独で演奏される機会もよくある。

概要

このピアノソナタが、いつごろ、またどこで作曲されたのかは判明していない。現在最も有力な説は、1783年ウィーンあるいはザルツブルクで作曲されたとするものである。一方で1778年パリで作曲されたとする説もある。

この曲の最も著しい特徴として、一般の4楽章構成によるソナタ(急-緩-舞-急)の最初の楽章に相当する楽章を欠いている(緩-舞-急しかない)ことが挙げられる。ソナタ形式による楽章を含まない「ソナタ」は、もはや古典派ソナタの定義からはずれているが、時代が下るにつれてソナタ形式の欠如は珍しいことではなくなっていく。

曲の構成

  • 第1楽章 主題と変奏:アンダンテ・グラツィオーソ(第5変奏ではアダージョ、第6変奏ではアレグレット)
    イ長調(第3変奏ではイ短調)、8分の6拍子(第6変奏では4分の4拍子)、変奏曲形式
    
\version "2.14.2"
\header {
 tagline = ##f
}

upper= \relative c'' {
 \clef treble
 \key a \major
 \time 6/8
 \tempo 4 = 60
 \tempo "Andante grazioso"
 \set Staff.midiInstrument = #"piano"

 \repeat volta 2 {
 cis8.\p^\markup { Andante grazioso } (d16 cis8) e4 e8
 b8. (cis16 b8) d4 d8
 a4 a8 b4 b8
 cis4 << {e16\sf (d) cis4 ^(b8) } \\ {b8 a4\p gis8} >>
 cis8. (d16) cis 8 e4 e8
 b8. (cis16) b8 d4 d8
 a4 b8 cis4 <fis, b d>8\sf
 < e a cis>4\p (<d gis b>8) < cis e a>4 r8
 }
 \repeat volta 2 {
 e'8. (fis16) e8 fis4 fis8
 \grace {fis16 (gis} a8.) gis16 fis8 fis8 (e) e-!
 e\sf (cis) a-! e'\sf (d) b-!
 e\sf (cis) a-! <<{ cis4 ^(b8)} \\ { a4\p gis8 } >>
 cis8. (d16) cis 8 e4 e8
 b8. (cis16) b8 d4 d8
 a4 b8 cis4 <fis, b d>8\sf
 <e a cis>4\p <e gis b>8 <e gis b>4 (<a cis>8)
 <e a cis>4\f <e gis d'>8 <e a e'>4 fis'16 (gis32 a)
 a,4 <<{cis16 (b)}\\ {gis8}>> a4 r8
 }
}

lower=\relative c' {
 \clef bass
 \key a \major
 \time 6/8
 \set Staff.midiInstrument = #"piano"

 \repeat volta 2 {
 << { e4 e8 e4 e8 } \\ { a,8.( b16 a8) cis4 cis8 } >>
 << { e4 e8 e4 e8 } \\ { gis,8.( a16 gis8) b4 b8 } >>
 << { e4 e8 e4 e8 } \\ { fis,4 fis8 gis4 gis8 } >>
 << { e'4 } \\ { a,4 d,8( e4.) } >>
 << { e'4 e8 e4 e8 } \\ { a,8.( b16 a8) cis4 cis8 } >>
 << { e4 e8 e4 e8 } \\ { gis,8.( a16 gis8) b4 b8 } >>
 << { e4 e8 e4 } \\ { fis,4 gis8 a4 d,8 } >>
 e4 e,8 a4 r8
 }
 \repeat volta 2 {\clef treble
 a'8 cis e a, d fis
 a, d fis a, cis e
 \clef bass
 <a, cis>4 r8 < gis d'>4 r8
 <a cis>4 <fis dis'>8 <e e'>4.
 << { e'4 e8 e4 e8 } \\ { a,8.( b16 a8) cis4 cis8 } >>
 << { e4 e8 e4 e8 } \\ { gis,8.( a16 gis8) b4 b8 } >>
 << { e4 e8 e4 } \\ { fis,4 gis8 a4 d,8 } >>
 e4 e,8 a4.
 <a a'>4 <b b'>8 <cis cis'>4 <d d'>8
 <e cis'>4 <e d'>8 <a cis>4 r8
 }
 }
\score {
 \new PianoStaff \with { instrumentName = #"Piano" }
 <<
 \new Staff = "upper" \upper
 \new Staff = "lower" \lower
 >>
\layout { }
\midi { } }
    シチリアーナの主題と6つの変奏からなる。冒頭の主題から第4変奏までは8分の6拍子のアンダンテであるが、第5変奏は8分の6拍子のアダージョ、最終の第6変奏は軽快な4分の4拍子のアレグレットとなり、そのままのテンポで短いコーダを伴って締めくくる。
  • 第3楽章 トルコ風ロンド:アレグレット
    イ短調 - イ長調、4分の2拍子、ロンド形式(A→B→C→B→A→B'→コーダ、B'はオクターヴを分散して16分音符化した旋律)。
    
\new PianoStaff
<<
 \new Staff = "right" \with {
 midiInstrument = "acoustic grand"
 } \relative c'' {
 \key a \minor
 \numericTimeSignature
 \time 2/4
 \partial 4
 \tempo "Allegretto" 4=126
 b16(\p^\markup { Alla turca } a gis a
 c8-.) r d16( c b c
 e8-.) r f16( e dis e
 b' a gis a b a gis a
 c4->) a8-. c-.
 \appoggiatura { g32[ a] } b8-.->[ <a fis>-. <g e>-. <a fis>-.]
 \appoggiatura { g32[ a] } b8-.->[ <a fis>-. <g e>-. <a fis>-.]
 \appoggiatura { g32[ a] } b8-.->[ <a fis>-. <g e>-. <fis dis>-.]
 e4--
 \bar ":|:"
 <c e>8-.\mp <d f>-.
 <e g>-. <e g>-. a16( g f e)
 << {d4->} \\ {b8( g)} >> <c e>8-. <d f>-.
 }
 \new Staff = "left" \with {
 midiInstrument = "acoustic grand"
 } {
 \clef bass \relative c' {
 \key a \minor
 \numericTimeSignature
 \time 2/4
 \partial 4
 \tempo "Allegretto" 4=126
 r4
 a8[( <c e>)-. <c e>-. <c e>-.]
 a[( <c e>)-. <c e>-. <c e>-.]
 a[-. <c e>-. a-. <c e>-.]
 a[( <c e>)-. <c e>-. <c e>-.]
 e,-.->[ <b' e>-. <b e>-. <b e>-.]
 e,-.->[ <b' e>-. <b e>-. <b e>-.]
 e,-.->[ <b' e>-. b,-. b'-.]
 e,4--
 \bar ":|:"
 r4
 c8-. c'-. e,-. e'-.
 g,4 r
 } }
>>
    有名な「トルコ行進曲」である。当時流行していたトルコ趣味を取り入れたものである。左手の伴奏がトルコの軍楽隊の打楽器の響きを模倣している。

自筆譜断片の発見

本作品の自筆譜は、第3楽章の第90小節以降が記された最後のページだけが現存し、それ以外は消失したと考えられていた[1][2]。しかし2014年に、ハンガリーブダペスト国立セーチェーニ図書館にて、同図書館音楽部門主任のミクシ・バラージュが、第1楽章の第3変奏冒頭から第2楽章のトリオ第10小節までが記された4ページの手稿譜を発見した。紙の透かし模様や筆跡などがザルツブルクモーツァルテウム財団モーツァルト図書館に保管されている既知の自筆譜と一致しており、鑑定の結果、モーツァルトの真筆であると認められた。発見された自筆譜は同年9月26日に同図書館で公開、同時にコチシュ・ゾルターンによって蘇演され[3]、後に同図書館のウェブサイトで全体の写真を閲覧することができるようになった[4]。これで、発見されていないのは、第1楽章冒頭と、第二楽章トリオ11小節目以降から終楽章冒頭から89小節までとなった。

この発見をきっかけに、本作品の研究が大きく進展することとなった。発見された自筆譜には、これまでの本文批評で基礎資料として用いられてきた初版譜(1784年アルタリア)との相違が複数見られ、それが従来の解釈を覆すようなケースもあった[2]ため、批判校訂版の楽譜を専門に出版するヘンレ社を筆頭に、多くの出版社からこの自筆譜に基づく新版が出版されている。

この曲が使用された作品など

第1楽章

第3楽章「トルコ行進曲」

  • 殿さまキングス1983年に「係長5時を過ぎれば」として歌詞をつけて歌った(作詞:大谷キヨコ、補作詞:さいとう大三、編曲:前田俊明)。 
  • メロディにテレビ番組『おかあさんといっしょ』のコーナー名、及び番組内で歌われている楽曲の歌詞を羅列した歌詞(替え歌)を載せた「おかあさんといっしょのトルコ行進曲」、「おかあさんといっしょのトルコ行進曲99'」、「おかあさんといっしょのトルコ行進曲2009」、「おかあさんといっしょのトルコ行進曲2017」がある。西暦年のついてないオリジナル版は1996年当時、それ以外はタイトルにつけられた西暦年当時の番組内容が歌われている。いずれのバージョンも作詞は井出隆夫が担当。
  • 杉ちゃん&鉄平の2枚目のアルバム『マジカル・ミステリー・クラシック』には「琉球音階によるモーツァルト『ハイサイトルコ行進曲』」が収録されている。
  • TM NETWORKの曲『Human System』(アルバム『humansystem』に収録)のイントロ・アウトロのメロディーに、この楽章の一部がアレンジされ引用されている。
  • 書上奈朋子の曲『fantasma che vaga』(アルバム『BAROQUE』に収録)は、極端にアレンジされているが、トルコ行進曲である。
  • シューティングゲーム極上パロディウス 〜過去の栄光を求めて〜」のステージ5ボス戦にて、アレンジされたものが使用されている。
  • アーケードゲーム『beatmania IIDX』に、Twin AmadeuSによってアレンジされた「alla turca con passione」が収録されている。
  • アーケードゲーム『pop'n music』のクラシックのピアノ曲のメドレー楽曲であるジャンル名「クラシック4」に使われている。
  • アーケードゲーム『jubeat』に泉陸奥彦によってアレンジされた「トルコ行進曲」が収録されている(「T.M. Orchestra」名義)。
  • 由紀さおり安田祥子の持ち歌である。スキャットで歌われる。1999年ブラームス作曲の「ハンガリー舞曲第5番」とのカップリングでシングルCDとして発売されたほか、複数のCDに収録されている。清水ミチコが由紀の物まねを始めたことでその曲を歌えるようになり、「日本名曲アルバム」にゲスト出演した安田とともにスキャットで歌った。
  • イアン・ギランが在籍していたイギリスのポップバンド、エピソード・シックスがインストゥルメンタル曲「Mozart Versus The Rest」としてアレンジ。
  • アルカーディ・ヴォロドスや、ファジル・サイといった有名な演奏者がアレンジしたトルコ行進曲を発表している。
  • サンライズ制作のアニメクラシカロイド」の第17話で、この曲を大幅にアレンジした楽曲「みかんソンビマーチ ~トルコ行進曲より~」が使用されている。
  • アーケードゲーム『crossbeats REV.』にRemix Ver.(編曲はYugo Ichikawa)が収録されている。また、iOSゲーム『CROSS×BEATS』には、この曲のShort Remixが収録されている。
  • オワタP初音ミクに自作の歌詞を歌わせた「トルコ行進曲 - オワタ\(^o^)/」がある。
  • オートコミュニケーションズ - フラット7のCMにオリジナル歌詞で使用されている。

出典

  1. ^ 丸山 瑤子「200年の時を超えて~モーツァルトのピアノソナタ自筆譜見つかる!」『ピティナ・ピアノ曲事典ニュース』2014年12月17日。2019年5月21日閲覧。
  2. ^ a b 畑野 小百合 (2014年10月). “【緊急レポート】モーツァルトのピアノ・ソナタ《トルコ行進曲付き》の自筆譜発見をめぐって”. アルテス電子版. アルテスパブリッシング. 2019年5月21日閲覧。
  3. ^ “A rediscovered sonata, as Mozart intended”. AFP. (2014年9月27日). オリジナルの2014年10月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141009130744/http://www.afp.com/en/news/rediscovered-sonata-mozart-intended/ 2019年5月21日閲覧。 
  4. ^ “K. 331 Sonata in A major” (英語). ハンガリー国立セーチェーニ図書館. 2019年5月21日閲覧。

関連項目

外部リンク

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番号付き

第1番 ハ長調 K. 279 (189d) - 第2番 ヘ長調 K. 280 (189e) - 第3番 変ロ長調 K. 281 (189f) - 第4番 変ホ長調 K. 282 (189g) - 第5番 ト長調 K. 283 (189h) - 第6番 ニ長調 K. 284 (205b) - 第7番 ハ長調 K. 309 (284b) - 第8(9)番 イ短調 K. 310 (300d)a - 第9(8)番 ニ長調 K. 311 (284c)a - 第10番 ハ長調 K. 330 (300h) - 第11番 イ長調 K. 331 (300i)『トルコ行進曲付き』 - 第12番 ヘ長調 K. 332 (300k) - 第13番 変ロ長調 K. 333 (315c) - 第14番 ハ短調 K. 457 - 第15(18)番 ヘ長調 K. 533/494b - 第16(15)番 ハ長調 K. 545b - 第17(16)番 変ロ長調 K. 570b - 第18(17)番 ニ長調 K. 576b

^a 通し番号内の()の番号は新モーツァルト全集の番号 ^b 通し番号内の()の番号は旧モーツァルト全集の番号

番号なし

変ロ長調 K. 498a (Anh. C 25.04/05) - ヘ長調 K. Anh. 135 (547a)

ピアノ連弾

ハ長調 K. 19d - 変ロ長調 K. 358 (186c) - ニ長調 K. 381 (123a) - ヘ長調 K. 497 - ハ長調 K. 521 - ト長調 K. 357 (497a)

2台ピアノ

2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K. 448 (375a) - 2台のピアノのためのソナタ楽章 変ロ長調(断片)K. Anh. 42 (375b) - 2台のピアノのためのソナタ楽章ないしロンド・フィナーレ 変ロ長調(断片) K. Anh. 43 (375c)

モーツァルトの楽曲一覧
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