メルセデス・F1 W03
モナコGPで走行中のF1 W03 ドライバーはミハエル・シューマッハ | |||||||||||
カテゴリー | F1 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コンストラクター | メルセデス | ||||||||||
デザイナー | ボブ・ベル | ||||||||||
先代 | メルセデス・MGP W02 | ||||||||||
後継 | メルセデス・F1 W04 | ||||||||||
主要諸元 | |||||||||||
エンジン | メルセデス・ベンツFO108Z | ||||||||||
タイヤ | ピレリ | ||||||||||
主要成績 | |||||||||||
チーム | メルセデスAMG・ペトロナス・F1チーム | ||||||||||
ドライバー | ミハエル・シューマッハ ニコ・ロズベルグ | ||||||||||
出走時期 | 2012年 | ||||||||||
コンストラクターズタイトル | 0 | ||||||||||
ドライバーズタイトル | 0 | ||||||||||
通算獲得ポイント | 142 | ||||||||||
初戦 | 2012年オーストラリアグランプリ | ||||||||||
初勝利 | 2012年中国グランプリ | ||||||||||
最終戦 | 2012年ブラジルGP | ||||||||||
| |||||||||||
テンプレートを表示 |
メルセデス・F1 W03 (Mercedes F1 W03) は、メルセデスAMGが2012年のF1世界選手権参戦用に開発したフォーミュラ1カー。テクニカルディレクターのボブ・ベルらが開発を担当した。
概要
F1 W03はメルセデスワークスが復活してから3作目のマシンとなる。チームはファクトリーでの準備期間を伸ばすため、オフシーズン3回に限られる合同テストのうち、最初のヘレステストでの使用を見合わせ、2回目のバルセロナテストからトラックデビューさせた。
ダブルDRS
フロントウィング
フロントウィングには2010年限りで禁止されたFダクトの応用版を組み込み、ドラッグを減らして直線スピードを上げているとみられる(2011年シーズンからこの装置をテストしていた[1])。情報開示が無いため詳細は不明だが、専門家により様々な推測がなされている。
ひとつは、ノーズ先端の吸気口から取り入れた空気が3系統に分岐し、フロントウィングのステー内部を通って、ウィング裏側のスリットから放出されるという考察で、その経路からWダクトと呼ばれる[2]。直線走行中は3系統すべてが機能するが、コーナリング中はノーズに気流の当たる角度が変わり、片側のウィングにのみ効果が生じるとみられる[3]。この方式はドライバーが操作する手動式ではなく、受動式であるためレギュレーションには抵触しない[2]。
その後登場した考察では、リアウィングのドラッグリダクションシステム (DRS) に連動するシステムと考えられている。直線区間でドライバーがDRSを作動させるとリアウィングのフラップが開くが、その際、左右の翼端板内側に「穴」が露出する[4]。この穴から取り入れた空気を2本の通気管を通してフロントまで導き、Fダクトを作動させるという複雑な方法である[5]。このシステムはマスコミや関係者の間では、DRSの作動で前後ウイングを同時に失速させる事からダブルDRSと呼ばれた。DRSは決勝レースではオーバーテイク時しか使用できないが、予選では自由に使用できるため、予選タイムの向上が期待できる。
この方式はDRSの操作に関連するため、「ドライバーの動作を利用して車両の空力学的特性を変更してはならない」とする禁止事項(テクニカルレギュレーション第3条15項)に抵触するか微妙な部分がある。FIA技術責任者のチャーリー・ホワイティングは「完全にパッシブ(受動的)なシステム」であるとして合法と判断したが[6]、レッドブルやロータスは違法との見解を示した[5]。ロータスは第3戦中国グランプリ前にFIAに正式に抗議の申し立てを行ったものの、FIA側は改めて合法であるとの立場でこの申し立てを却下した[7]。
このシステムはマシンの前後をつなぐ配管など構造が複雑であるため、シーズン中に追随するチームは現れなかった。また、あえて導入するほどの効果はないとの意見もあった[8]。FIAは2013年シーズンからDRS連動型の装置を禁止すると発表した[9]。
リアウィング
第12戦ベルギーGPより、先にロータスが開発していたリアウィング用ダブルDRSのテストも開始した(当初は「トリプルDRS」とも呼ばれた[10])。このシステムは厳密にはDRSの動作には関連しておらず、エアボックス両脇から取り入れた空気でリアウィングを失速させる「受動式Fダクト」のようなものである。ロータスは空気をメインプレート内部へ注入しているが、メルセデスの場合はメインプレート裏側の中央付近へ吹き付ける形としている[11][12]。ロータスと同じく金曜フリー走行で評価テストを続けたが、シーズン中の実戦投入には至らなかった。
2012年シーズン
第3戦中国GPの予選ではフロントローを独占し、ニコ・ロズベルグが自身初のポール・トゥ・ウィンを達成。メルセデスワークスとしては1955年の最終戦以来となる1勝をえた。ミハエル・シューマッハは第6戦モナコGPで幻のポールポジション[13]、第8戦ヨーロッパGPでは現役復帰後初の表彰台を獲得した。しかし、後半戦は失速してプライベーターチームにも後塵を拝するようになり、終盤6戦は1回しか入賞できなかった。
F1 W03は予選一発の速さに比べるとレースペースの悪さやタイヤのデグラデーションが問題となり[14][15]、レース中に順位を落とすケースが目立った。また、シューマッハの場合はマシントラブルやピット作業のミスが多発した。
チーム首脳のロス・ブラウンは、ダブルDRSによってフロントウィングの形状が制限され、"狡猾な"テクノロジーの開発に遅れをとったと語った[16]。また、ノルベルト・ハウグはコアンダ・エキゾーストの投入が遅れたことや、風洞施設の拡張にともなう作業中断が影響したと説明した[17]。
スペック
[18][19]
シャーシ
- シャーシ名 F1 W03
- 全長 4,800 mm
- 全幅 1,800 mm
- 全高 950 mm
- シャーシ構造 カーボンファイバー/ハニカムコンポジット構造
- サスペンション 独立懸架 ダブルウィッシュボーン 前プッシュロッド/後プルロッド トーションバー・ダンパー
- ダンパー ペンスキー
- ホイール BBS 鍛造マグネシウム
- ブレーキキャリパー ブレンボ
- ブレーキディスク・パッド ブレンボ カーボンファイバーディスクブレーキ
- タイヤ ピレリ P Zero
- ギアボックス セミオートマチック 電子油圧制御シーケンシャル 7速+リバース1速 成型アルミニウムケース
- クラッチ カーボンプレート
- エレクトロニクス MES-マイクロソフト スタンダードECU
- ステアリング ラック・アンド・ピニオン(パワーアシスト付)カーボンファイバー製ステアリング・ホイール
- 重量
エンジン
- エンジン名 メルセデス・ベンツ FO108Z
- 気筒数・角度 V型8気筒・90度
- 排気量 2,400 cc
- 最高回転数 18,000 rpm (FIA規定値)
- バルブ数 32
- ピストンボア 98 mm (FIA規定値)
- 重量 95 kg (FIA規定最低重量)
記録
年 | No. | ドライバー | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | ポイント | ランキング |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AUS | MAL | CHN | BHR | ESP | MON | CAN | EUR | GBR | GER | HUN | BEL | ITA | SIN | JPN | KOR | IND | ABU | USA | BRA | |||||
2012 | 7 | シューマッハ | Ret | 10 | Ret | 10 | Ret | Ret | Ret | 3 | 7 | 7 | Ret | 7 | 6 | Ret | 11 | 13 | 22 | 11 | 16 | 7 | 142 | 5位 |
8 | ロズベルグ | 12 | 13 | 1 | 5 | 7 | 2 | 6 | 6 | 15 | 10 | 10 | 11 | 7 | 5 | Ret | Ret | 11 | Ret | 13 | 15 |
脚注
- ^ “メルセデスGP、2012年にむけて“フロントウイング Fダクト”を開発”. F1-Gate.com. (2011年10月19日). http://f1-gate.com/mercedes-benz/f1_13291.html 2012年3月8日閲覧。
- ^ a b “メルセデスの発明、呼び名は"Wダクト"”. ESPN F1. (2012年2月22日). http://ja.espnf1.com/mercedes/motorsport/story/70935.html 2012年3月8日閲覧。
- ^ second wind (2012年2月25日). “ライバルも警戒 Wダクトでトップ3ねらうメルセデス(1/2)”. OCNスポーツ. http://sportsnews.blog.ocn.ne.jp/column/motor120227_1_1.html 2012年4月4日閲覧。
- ^ “Mercedes F1 W03 - 'F-duct' rear wing” (英語). Formula1.com (2012年3月19日). 2012年4月4日閲覧。
- ^ a b “Fダクトに否定的な態度を貫くロータス”. ESPN F1. (2012年4月3日). http://ja.espnf1.com/mercedes/motorsport/story/74806.html 2012年4月4日閲覧。
- ^ “メルセデスの新Fダクトシステム、合法との判定”. オートスポーツweb. (2012年3月15日). https://www.as-web.jp/past/%e3%83%a1%e3%83%ab%e3%82%bb%e3%83%87%e3%82%b9%e3%81%ae%e6%96%b0f%e3%83%80%e3%82%af%e3%83%88%e3%82%b7%e3%82%b9%e3%83%86%e3%83%a0%e3%80%81%e5%90%88%e6%b3%95%e3%81%a8%e3%81%ae%e5%88%a4%e5%ae%9a 2012年4月4日閲覧。
- ^ “FIA、ロータスの申し立てを却下”. F1-Gate.com. (2012年4月13日). http://f1-gate.com/fia/f1_14923.html 2012年4月19日閲覧。
- ^ ジェンソン・バトン、ダブルDRSの効果に疑問 - Topnews (2012年4月23日)2012年12月18日閲覧。
- ^ メルセデス式のダブルDRS、来季ルールで禁止 - ESPN F1(2012年9月28日)2012年12月18日閲覧。
- ^ メルセデスAMG、若手テストで「トリプルDRS」をテスト - Topnews(2012年9月13日)2012年12月18日閲覧。
- ^ Mercedes F1 W03 - revised 'double DRS' system - Formula1.com(2012年9月2日)2012年12月18日閲覧。
- ^ Mercedes F1 W03 - passive 'double DRS' system - Formula1.com(20年11月4日)2012年12月18日閲覧。
- ^ 予選Q3でトップタイムを記録したが、前戦スペインGPで受けたペナルティーにより10グリッド降格。
- ^ ザウバー、決勝ペースでは2位との分析 - Topnews(2012年6月21日)2012年12月18日閲覧。
- ^ 問題箇所を明かすメルセデス - ESPN F1(2012年7月27日)2012年12月18日閲覧。
- ^ メルセデス「ダブルDRSにはマイナス要素もあった」 - オートスポーツweb(2012年11月14日)2012年12月18日閲覧。
- ^ 開発が不十分だったと振り返るハウグ - ESPN F1(2012年12月1日)2012年12月18日閲覧。
- ^ “メルセデスAMG F1 W03”. F1-Gate.com. (2012年2月21日). http://f1-gate.com/mercedes-benz/f1_w03.html 2012年3月8日閲覧。
- ^ 世良耕太. “メルセデスAMG・ペトロナス・フォーミュラ・ワン・チーム マシン紹介”. STNGER. http://www.f1-stinger.com/f1-data/2012/machine/mercedes/ 2012年3月8日閲覧。
メルセデスAMGペトロナス | |||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2010年 - 現在 ワークスチーム |
| ||||||||||||||||
1994年 - 現在 エンジン/PU供給 |
| ||||||||||||||||
1952年 - 1955年 ワークスチーム |
| ||||||||||||||||
関連項目 | |||||||||||||||||
※役職等は2024年2月時点。 ※太字のドライバーはメルセデスにおいてドライバーズワールドチャンピオンを獲得。 |
| |
---|---|
- 表示
- 編集